人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分1 土台:人は理屈より気持ちで動く★★★この回で「責める」と呼ぶものは、3つに分けられます。
声を荒げていなくても、責めていることはあります。 ため息や舌打ち、急に黙り込むことも、相手にはしっかり伝わります。 言葉より態度の方が強く届くことも多いんです。
責めないと聞くと、「じゃあ何も言えないの?」と心配になるかもしれません。 そうではありません。困った事実や、次にしてほしい事は伝えて構いません。
違いは、言葉が何に向いているかです。 「記録が1件抜けていたよ。今日中に足せるかな」は、出来事と次の一手に向いています。 「なんでいつも抜けるの」は、相手そのものに向いています。 後のほうが、この回で言う「責める」です。
責められた人が最初に考えるのは、「どう直すか」ではありません。 「自分は悪くない」と言える理由を探し始めます。 「忙しかった」「聞いていなかった」「前はそれで良かった」という具合です。
責めると、相手は直す方ではなく、自分を守る方に力を使います。 しかも言った側には、「言ってやった」という手応えだけが残ります。 相手は変わっていないのに、伝えた気になってしまうのが怖い所です。
責める言葉は、たいてい反射で出ます。 「もう言わない」と決めるだけでは、なかなか止まりません。 そこで、口を開く前に小さな間(ま)を作ります。
3つ全部できなくても、1番だけで十分に違います。 息を吐いている数秒のあいだに、最初の強い言葉が少し落ち着くからです。
責める言葉は、「なんで〜しなかったの」の形をしていることが多いです。 これは質問に見えて、実際は相手を問い詰めています。 答えようとすると、言い訳しか出てこない聞き方なんです。
代わりに「どうしたら〜しやすくなるかな」と聞きます。 目線が過去の失敗から、次の工夫に移ります。 問いかけの使い方は、詳しくはNo.16(後で出ます)で扱います。ここでは「なんで」を口にしかけたら気づく、だけで大丈夫です。
○ よくある勘違い:責めない=何も言わない・甘やかす、ではありません。事実と次の一手は、はっきり伝えます。やめるのは、相手そのものを悪く言うことです
○ 関係する単元:No.02(後で出ます。良い所を具体的に言葉にする原則で、責めない事と対になります)
わざと失敗しようとして動く人は、ほとんどいません。 記録を書き忘れたスタッフにも、その時は別の事を優先した理由があります。 外から見ると単なる手抜きでも、本人の中では筋が通っていることが多いんです。
だから「あなたが悪い」と言われると、本人は納得できません。 自分の中の筋道を、まるごと否定されたように感じるからです。 これが、責めても話が前に進まない根っこです。
人は責められると、まず自分を守ろうとします。 言い返す人もいれば、黙ってやり過ごす人もいます。 どちらも「直そう」という気持ちとは別の所に心が向いています。
反対に、責められずに事実だけを伝えられると、守る必要がありません。 すると空いた心の余裕で、「次はどうしよう」と考えられるようになります。 責めないのは相手に優しくするためでもありますが、話を前に進めるためでもあるんです。
責められる経験が続くと、人は失敗を報告しなくなります。 怒られると分かっていれば、言わずに済ませたくなるのが自然です。 その結果、あなたが問題に気づくのは、いちばん大きくなった後になります。
小さな会社では、1つの失敗の後始末を経営者が背負うことも多いはずです。 責めないことは、早めに悪い知らせが届く職場をつくることでもあります。
月末に記録を見直したら、Aさんの分が2件抜けていました。
前者を言われたAさんは、身内だからこそ「そっちだって」と言い返したくなります。 後者は事実と期限を伝えた上で、原因を一緒に探す形です。 「帰りの車で書こうとして忘れる」のような、直せる理由が出てくることがあります。
レンタルの後、床に養生テープが残ったままでした。
前者は正しい内容ですが、相手は「注意された客」になります。 後者は事実と次のお願いを伝え、こちらでできる工夫も添えています。 常連さんほど、この差で次の予約が変わります。
販売ページの画像が、約束の日に届きませんでした。
遅れた本人は、もう悪いと分かっていることがほとんどです。 責める一言を足しても速くはなりません。 いつまでに何が要るかを伝える方が、相手は動きやすくなります。
「いつも」という言葉は、今日の出来事を人柄の話に広げてしまいます。 今日の事だけを、短く伝えます。
今日、誰かに「責める一言」を言いかけた時に1回だけ、息をゆっくり1回吐いてください。 そのあとで、「起きた事実」と「次にしてほしい事」だけを言います。
言う言葉の形はこれだけです。 「〇〇だったよ。次は〇〇してもらえるかな」
うまくいかずに責めてしまっても構いません。 夜の振り返りシートの「やってしまったこと」の欄に、正直に書いておけば十分です。 自分を責めないのも、この原則のうちです。
責めると、相手は直す方ではなく守る方に力を使う。責めたくなったら息を1回吐き、「事実」と「次にしてほしい事」だけを言う。
問1 家族スタッフのAさんが、訪問記録を2件書き忘れていました。この回の考え方に近い伝え方はどれですか。
問2 子どもが宿題をせずにゲームをしています。思わず「なんで宿題やってないの」と言いかけました。この回で勧めている動きはどれですか。
問3 スタッフの小さな失敗を毎回強く責めている職場で、起こりやすいことはどれですか。
問4 外注のデザイナーさんの納品が、約束の日に遅れました。この回の考え方に近いメッセージはどれですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「人を責めない(批判・非難・苦情をやめる)」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。