人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分3 相手に納得してもらう★★

No.14 気持ちに訴える・見せ方を工夫する・挑戦心を刺激する

損得の理屈だけでは動かない時に、相手の良い心・目で見える形・やりがいに訴えるための回です。★2の、ここぞという場面で使う原則なのでさらっと押さえますが、操作にしない線だけはしっかり読んでください。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 気持ちに訴える :相手の「こうありたい」という良い気持ちに呼びかけること

人は、得か損かだけで動いているわけではありません。 「ちゃんとした人でいたい」「人の役に立ちたい」という気持ちも持っています。 この単元では、その良い気持ちに呼びかけることを「気持ちに訴える」と呼びます。

② 見せ方を工夫する :同じ内容を、目で見える形にして伝えること

言葉で何度言っても伝わらないことが、写真や実物を1つ見せるだけで伝わることがあります。 内容は変えずに、伝える形を変えることです。

③ 挑戦心を刺激する :相手の「やってみたい」「超えてみたい」気持ちに火をつけること

ここで大事なのは、相手を他人と比べて焦らせることではない、という点です。 相手自身の目標や、前の自分を超える気持ちに呼びかけます。

第1章 要点

① 相手の良い心を信じて、そこに呼びかける 必ず覚える

頼みごとをする時、あなたはつい理屈や損得で説得しようとします。 それで動かない相手には、相手の良い面を信じて、そこに呼びかけます。

「きまりなので守ってください」ではなく、「〇〇さんなら、次の方のことも考えてくださると思って」と伝えます。 相手を「きまりを守らない人」ではなく「思いやりのある人」として扱うんです。

② 良心を利用する操作にしない 必ず覚える

気持ちに訴えることは、使い方を間違えると、相手の良心を利用する操作になります。 相手の良い心に呼びかけるのはよいことですが、罪悪感で縛るのは操作です。

呼びかける前に、次の4つを自分に確かめてください。

  1. 言っていることは、本当のことか(大げさにしていないか)
  2. 相手が断っても、関係が悪くならないか
  3. 相手にとっても、意味のあることか
  4. 同じことを自分が言われて、嫌な気持ちにならないか

1つでも「いいえ」なら、それは操作に近づいています。 たとえば次のような言い方は、線を越えています。

呼びかけるのは良い心、縛るのは操作。 迷った時は、この線を思い出してください。

③ 見せ方と挑戦心は、正直に使う さらっと

見せ方を工夫する時は、事実を大きく見せたり、作ったりしません。 写真・実物・表など、本当のものを見せるだけで十分です。

挑戦心に訴える時は、他人と比べて下げるのではなく、相手自身の前回と比べます。 「先月より5分早く終われたね。次はどこまでいけそう?」のように、相手の伸びを材料にします。

第2章 なぜ効くのか

① 人は、良い人として扱われると、それに沿いたくなる

「思いやりのある人」として声をかけられると、人はその期待に沿いたいと感じます。 反対に「守らない人」として扱われると、反発したくなります。

ただし、これは相手の良い面を本当に信じている時だけ働きます。 口先だけで持ち上げて、利用されたと気づかれた瞬間に、信頼は一気に崩れます。 良心に訴える原則が、操作と紙一重なのはこのためです。

② 目で見たものは、言葉より早く気持ちに届く

言葉は、相手が頭で理解してから気持ちに届きます。 写真や実物は、理解より先に「あ、こういうことか」と感じさせます。

③ 自分で超えたい目標は、命令より長く続く

人から言われた目標は、言われなくなれば止まります。 自分が「超えてみたい」と思った目標は、誰も見ていなくても続きます。 ただし、他人と比べられて焦った気持ちは長続きしないうえに、比べられた相手との関係も悪くします。

第3章 日常・仕事の例

① 片付けをしないスタジオの利用者さんに、気持ちと見せ方で伝える

レンタルスペースの利用後、床にごみが残ったままの日が続いています。

ダメな言い方(線を越えている): 「毎回汚して帰る人がいて、こっちは本当に迷惑してるんですよ。次の方がかわいそうだと思いませんか」

相手を「迷惑な人」として扱い、罪悪感で縛ろうとしています。

言い換え: 「いつもご利用ありがとうございます。次に使う方も、気持ちよく練習を始めたいと思っていらっしゃるので、〇〇さんにも片付けのご協力をお願いできると嬉しいです」

あわせて、片付いた状態のスタジオの写真を、入口に貼っておきます。 「この状態で次の方へ」と一言そえるだけで、何をすればいいかが目で分かります。

② 家族スタッフのAさんに、記録の時間短縮へ挑戦してもらう

新しい記録のやり方に変えたいのですが、Aさんは慣れたやり方を変えたがりません。

ダメな言い方(線を越えている): 「ヘルパーのBさんは、もう新しいやり方でできてるよ。Aさんだけだよ、まだなのは」

他人と比べて下げる言い方で、Aさんの顔をつぶしています(人前で恥をかかせ、相手の面子を失わせることです)。

言い換え: 「Aさん、記録をもっと早く終わらせられたら、ご利用者さんと話す時間が増えるよね。新しいやり方で、今の記録の時間をどこまで縮められるか、1週間だけ試してみない?」

Aさん自身の前の記録と比べる目標です。 しかも、ご利用者さんと話す時間が増える、というAさんにとっての意味もそえています。

③ 子どもに、手伝いを頼む

週末の買い物の荷物運びを、子どもに手伝ってほしい場面です。

ダメな言い方(線を越えている): 「お父さん、毎日疲れてるんだけどな……」とため息をつき、子どもが断れない空気をつくる。

言い換え: 「重い荷物があって、1人だと大変なんだ。力を貸してくれたら、すごく助かる」

本当のことを言い、断る余地も残しています。 手伝ってくれたら、「助かったよ、ありがとう」とその場で伝えます。

第4章 今日の小さな実践

今日、誰かに頼みごとをする場面が1回あったら、言う前に第1章②の4つを頭の中で確かめます。 そのうえで、相手の良い面に呼びかける一言を1つ入れてください。

「〇〇さんなら、〜してくださると思って」

1日の終わりに、振り返りシートに「No.14」と書きます。 「やってしまったこと」の欄には、罪悪感で動かそうとした場面があれば、正直に書いてください。

○ よくある勘違い:気持ちに訴えれば、どんな頼みも通る、と考えるのは誤りです。本当のことか・断れるか・相手にも意味があるかを外すと、良心を利用する操作になって信頼を失います
○ 関係する単元:相手にとっての意味をそえて、喜んで引き受けてもらう頼み方は、No.18(後で出ます)で詳しく扱います

相手の良い心を信じて呼びかける。ただし罪悪感で縛らない。本当のことか・断れるか・相手にも意味があるか・自分が言われて嫌でないか、を確かめてから言う。挑戦は他人とではなく、相手自身の前回と比べる。

確認問題

問1 片付けをしないスタジオの利用者さんに声をかけます。本文の考え方で、操作にならない言い方はどれですか。

問2 気持ちに訴える前に、本文が確かめるよう勧めていることに入らないものはどれですか。

問3 新しい記録のやり方を、家族スタッフのAさんに試してもらいたい場面です。挑戦心に訴える言い方として、本文に近いものはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「美しい心情に呼びかける」「演出を考える」「対抗意識を刺激する」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。