人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分4 人を育てる・注意する★★★

No.16 命令ではなく問いかけ、顔をつぶさない

「〜して」と言う代わりに問いで渡し、注意の時に相手の面子を守る回です。★3で、指示を出す立場なら毎日使うので、しっかりやります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 問いかけ :命令の代わりに、相手に考えてもらう質問の形で伝えること

「明日から5分早く出て」は命令です。 「次の訪問に間に合わせるには、どうしたら良さそう?」は問いかけです。 どちらも、目指している所は同じです。

違うのは、答えを出すのが誰か、という点です。 命令は、あなたが答えを決めて渡します。 問いかけは、答えを相手に出してもらいます。

② 顔をつぶす :人前で恥をかかせ、相手の面子(メンツ)を失わせること

面子とは、周りの人から見た自分の立場や誇りのことです。 間違いを指摘されること自体より、それを誰かに見られることのほうが、人は深く傷つきます。

③ 問い詰めとの違い

問いかけと間違えやすいのが、問い詰めです。 「なんでやらなかったの?」「どうして遅れたの?」は、形は質問でも中身は責めています。 答えがどれでも、相手は叱られる側に立たされます。

問いかけは、相手の考えを本当に聞きたい時の質問です。 過去を責めるのではなく、次にどうするかを一緒に考えるための質問です。

第1章 要点

① 「〜して」を「どうしたらいいかな」に変える 必ず覚える

指示を出したくなった時、言い方を一段だけ変えます。 よく使う形は次のとおりです。

相手の答えが、あなたの考えと少し違っても構いません。 目的に届くなら、相手の案をそのまま採ります。 自分で出した案なので、相手は最後までやり通そうとします。

ただし、問いにしてはいけないものがあります。 服薬確認や転倒防止のような、ご利用者さんの安全の決まりです。 「服薬確認、どうしたらいいと思う?」と聞くと、やるかやらないかまで相手に任せたように聞こえます。 安全の決まりは決まりとして伝え、「漏れないようにするには、どうしたら良さそう?」とやり方だけを問います。

② 問い詰めにしない 必ず覚える

問いかけのつもりで「なんで」「どうして」から始めると、ほぼ問い詰めになります。 過去のことを聞く質問は、どう答えても言い訳に聞こえてしまうからです。

質問を、過去ではなく次に向けます。 「なんで遅れたの?」ではなく、「次は間に合わせたいね。何があれば間に合いそう?」と聞きます。 理由を知りたい時は、「何か困っていることある?」と、相手を助ける側から聞きます。

③ 人前で注意しない、逃げ道を残す 必ず覚える

注意は二人の時に、ほめるのは人前でも。 この順番を逆にしないことが、顔をつぶさない基本です。

人前で何か言いたくなったら、その場では「後で少しいい?」とだけ伝えます。 中身は、二人きりになってから話します。

もう1つは、相手に逃げ道を残すことです。 「忙しい日だったもんね」「あの状況なら迷うよね」と、相手が悪くなかった部分を先に言葉にします。 相手は、自分の立場を守ったまま、間違いを認められます。

○ よくある勘違い:問いかけは「答えを知っているのに、わざと言わせる試験」ではありません。相手の案を採る気がないなら、問いの形にせず、丁寧に頼んだほうが誠実です
○ 関係する単元:No.13(相手に話させ、相手の考えにする)、No.15(ほめてから、遠回しに気づかせる)

第2章 なぜ効くのか

① 命令は「自分で決める」余地を奪う

人は、自分のことを自分で決めたい気持ちを持っています。 命令されると、その気持ちが押さえつけられたように感じます。 内容が正しくても、反発したくなったり、言われた分だけやって止めたりします。

問いかけは、決める役を相手に返します。 同じことをするのでも「やらされる」から「自分で決めた」に変わるので、動き方が変わります。

② 自分の案は、守りたくなる

自分で考えて出した案には、愛着がわきます。 うまくいかなかった時も、「自分の案だから、もう少し工夫しよう」と考えます。

人から渡された案だと、うまくいかない時に「言われた通りにやっただけ」と思いやすくなります。 現場をいちばん知っているのは、実際に動いている本人です。 本人の案のほうが、現場に合っていることも多いんです。

③ 人前の恥は、注意の中身より長く残る

人前で注意されると、相手に残るのは「何を直すか」より「恥をかいた」という記憶です。 その記憶は、注意した人への不信や距離として残り続けます。

家族スタッフは、ここで特に傷つきやすい立場にいます。 身内なので、あなたは遠慮なく人前で言ってしまいがちです。 言われた側は、職場でも家でも顔を合わせるので、逃げ場がありません。

第3章 日常・仕事の例

① 介護:家族スタッフのAさんの訪問時間の遅れ

ここ数日、Aさんが次の訪問先に数分遅れて着いています。

ダメな言い方 「明日から5分前には着いて。ご利用者さんを待たせないで」

命令なので、Aさんは「はい」と言うしかありません。 遅れている理由が解決しないまま、また同じことが起きます。

言い換え 「最近、移動がきつそうだね。次の訪問に余裕を持って着くには、どうしたら良さそう?」

Aさん「前のお宅で記録を全部書いてから出てるので、それで押してるかもしれません」 あなた「なるほど。じゃあ、どうしようか」 Aさん「記録は要点だけその場で書いて、残りは移動前に車で書きます」

答えはAさんが出しました。 あなたは、そのやり方で試してみることに賛成するだけです。

② 介護:ヘルパーのBさんのご利用者さんへの言葉づかい

Bさんが、ご家族もいる前で、ご利用者さんに子どもに話すような口調で話しかけていました。

ダメな言い方 その場で「Bさん、その言い方は失礼でしょう」と言います。 ご家族の前でBさんの顔をつぶし、ご利用者さんも気まずくなります。

言い換え その場では、あなたがご利用者さんに丁寧な言葉で話しかけ、自然に見本を見せます。 Bさんには「後で少しいい?」とだけ伝えます。

帰りの車の中で、二人きりになってから聞きます。 「Bさん、いつも明るく話しかけてくれるから、場が和むよね。さっきの話しかけ方、ご本人はどう受け取ってると思う?」 Bさんが「ちょっと子ども扱いっぽかったかもしれません」と気づいたら、「親しみと丁寧さを両方出すには、どんな言い方がいいかな」と続けます。

ご利用者さんは、人生の先輩です。 その方の誇りを守るためにも、言葉づかいは大切です。 同時に、Bさんの誇りも人前で傷つけないようにします。

③ 家庭:子どもに片付けを頼む

夕飯の前、机の上に子どものおもちゃが広がっています。

ダメな言い方 「早く片付けなさい。何回言わせるの」

言い換え 「あと10分でご飯なんだ。机の上でご飯を食べるには、どうしたらいいと思う?」

子どもは「おもちゃをどかす」と自分で答えます。 自分で言ったことなので、言われて動くより気持ちよく動けます。

第4章 今日の小さな実践

今日「〜して」と言いかけたら、1回だけ「〜するには、どうしたらいいかな」に言い換えます。 相手の答えが目的に届くなら、少し違っていてもそのまま採ります。

人前で注意したくなった時は、「後で少しいい?」だけ言って、その場は終えてください。

「〜して」を「〜するには、どうしたらいいかな」に変え、相手の案を採る。「なんで」で始めず、次に向けて聞く。注意は二人の時に、逃げ道を残して。

確認問題

問1 家族スタッフのAさんが、次の訪問先に何日か続けて遅れています。この回の考え方にいちばん近い声のかけ方はどれですか。

問2 ヘルパーのBさんが、ご家族の前でご利用者さんに子ども扱いのような口調で話しかけました。あなたはどうしますか。

問3 服薬確認の漏れが続いたヘルパーさんへの伝え方として、この回の考え方に合うのはどれですか。

問4 次のうち、問いかけではなく問い詰めになっているのはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「命令をせず、意見を求める」「顔をつぶさない」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。