人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分1 土台:人は理屈より気持ちで動く★★★ここで言う「欲しいもの」は、お金や物だけではありません。 楽になりたい。安心したい。失敗したくない。認められたい。時間を取られたくない。 こうした気持ちも、すべて相手の欲しいものです。
人によって、同じ話でも欲しいものは違います。 スタジオの値上げの話でも、ある利用者さんは「予約の取りやすさ」が気になり、別の人は「設備がきれいなままか」が気になります。 相手が何を大事にしているかを考えるのが、この回の出発点です。
相手の立場に立つと聞くと、相手の言うとおりにする事だと思うかもしれません。 そうではありません。 こちらのお願いや方針は、そのまま持っていて構いません。
変えるのは、話の入り口です。 同じお願いを、相手から見て嬉しい所から話し始めます。 ゆずるのではなく、相手の目線で並べ直すイメージです。
人は、頼まれたから動くのではありません。 「それをすると自分にとって良い事がある」と思えた時に、自分から動きます。 ここで言う良い事には、「相手の役に立てて嬉しい」という気持ちも入ります。
ところが私たちは、お願いする時につい自分の理由を話します。 「人が足りないから」「売上を上げたいから」「こっちが困るから」。 どれだけ正しくても、自分の理由だけでは、相手が動く理由になりません。
お願いや提案の前に、数秒だけ考える時間を取ります。 考える事は、次の3つのうちどれか1つで十分です。
答えが1つ見つかったら、それを話の最初の一文にします。 「これをすると、あなたは〇〇が楽になる」という形です。 自分の事情は、そのあとに添えれば十分伝わります。
相手の欲しいものが、いくら考えても分からない時があります。 その時は、決めつけずに本人に聞いてみます。 「この件で、一番気になっている事は何ですか」と聞けば、多くの場合は教えてもらえます。
想像だけで「相手の得」を作ると、外れていた時にかえって押しつけに聞こえます。 まして、本当は無い得をでっち上げたり大げさに言ったりするのは、相手を操る事です。ばれた時に信頼を失うので、言うのは本当に相手にある得だけにします。 相手に本気で関心を持つ事は、詳しくはNo.04(後で出ます)で扱います。ここでは、分からなければ聞けばいい、と覚えておけば大丈夫です。
○ よくある勘違い:相手の得から話す=こちらの事情を隠す、ではありません。事情は話の後ろに回すだけで、聞かれたら正直に話します
○ 関係する単元:No.18(後で出ます。相手にとっての意味を添えて、喜んで引き受けてもらう頼み方の原則です)
これは、人が自分勝手だという話ではありません。 誰でも、自分の仕事や家族の予定、今日の疲れの事を一番に考えて暮らしています。 あなた自身も、きっとそうです。
そこに「こちらの都合」の話が来ても、相手の頭の中には入る場所がありません。 相手の毎日に関係する話から始めると、初めて「自分の事だ」と耳を傾けてもらえます。
最初の一文で、相手は話全体の受け取り方を決めます。 「人が足りないので、土曜も入ってほしい」と始まると、相手は「こちらの穴埋めを頼まれた」と受け取ります。 そのあとでどんな良い条件を言っても、身構えたまま聞くことになります。
No.01で、責められると心が守りに入る話をしました。 自分の都合を押しつけられた時も、心は同じように守りに入ります。
相手の得から話を聞くと、相手は「やるかどうか」を自分の物差しで考えられます。 その上で「やる」と決めたら、それは命令ではなく、自分で選んだ事になります。
自分で選んだ事は、言われてやった事より長く続きます。 講座のゴールにある「相手が自分から動く」は、この形から生まれます。 責めない(No.01)、認める(No.02)で整えた土台の上に、この原則が乗っています。
事業所として、認知症ケアの研修を受けてくれる人を増やしたい場面です。
前者は、事業所の都合だけが伝わります。 後者は、Bさんが実際に困っていた事から始めています。 事業所の事情は、話の後ろに回しただけです。
前者は、読んだ人に「私が責められている」と感じさせることがあります。 後者は、利用者さん自身の「予約が取りにくい」という困り事から始めています。
購入者さんが欲しいのは、買った物で成果を出す事です。 感想を書く事が、その助けにもなる形にしています。 ここでも、販売ページに載せる場合はその事を正直に書き、許可を取ります。
子どもの「欲しいもの」は、明日の遊びです。 親の気持ちより、子どもの楽しみの方が、本人を動かします。
今日、誰かにお願いや提案をする前に1回だけ、「相手は何が欲しいか」を1つ考えてください。 答えが出たら、それを最初の一文にして話し始めます。
形はこれだけです。 「〇〇が楽になる(〇〇できる)と思うんだけど、〜してもらえるかな」
思いつかなければ、「この件で一番気になるのは何?」と先に聞いて構いません。 夜の振り返りシートには、最初の一文と相手の反応を書いておきましょう。
自分の理由だけでは、相手は動かない。話す前に「相手は何が欲しいか」を1つ考え、それを最初の一文にする。分からなければ聞く。無い得は作らない。
問1 ヘルパーのBさんに研修を受けてほしい場面です。この回の考え方に近い頼み方はどれですか。
問2 スタジオの利用者さんに「直前キャンセルが多く困っているため規定を変えます」と知らせる文が、押しつけに聞こえやすいのはなぜですか。
問3 ご家族に訪問時間の変更を相談したいのですが、ご家族が何を大事にしているのか、考えてもよく分かりません。この回で勧めている動きはどれですか。
問4 相手の得から話を始めると、相手が自分から動きやすくなるのはなぜですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「相手の欲しいものから話す」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。