人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分2 好かれる人になる★★★この回でいう関心は、相手の仕事ぶりや役に立つかどうかではありません。 相手その人が何を大事にしていて、何に困っていて、何をうれしいと感じるか。 そこを知りたいと思う気持ちのことです。
たとえるなら、地図を見る時の目に近いです。 目的地への道だけを見るのが「用件だけの関心」です。 その町に誰が住んでいて、どんな暮らしをしているかまで見ようとするのが、この回の関心です。
混ざりやすい物が2つあります。
1つ目は、関心があるふりです。 うなずきながら次に話すことを考えていたり、質問を形だけ並べたりする状態です。 顔は聞いていても、心は自分の方を向いています。
2つ目は、詮索(せんさく)です。 相手が話したくない事まで、こちらの好奇心で掘り下げることです。 本気の関心は、相手が話したい所を一緒に見に行くもので、のぞき込むこととは違います。
人と話す時、多くの人は自分のことを分かってもらおうとします。 自分の考え、自分の事情、自分の会社の良さ。 それを伝えれば、相手が好きになってくれると思うからです。
でも順番が逆なんです。 人は、自分に関心を向けてくれる人に関心を返します。 先に相手を知ろうとした人のほうが、結果として自分のことも聞いてもらえます。
この原則は、相手を思いどおりに動かすための入口ではありません。 「この人を知りたい」が本物かどうかが、全部を決めます。
関心を持とうと思っても、その場になると自分の用件で頭がいっぱいになります。 だから、会う前に小さく準備をします。
やることは1つだけです。 この人について、今日1つ知りたい事は何かを決めてから会います。 「この方が長く続けてきた趣味は何だろう」「Aさんは最近、何に手こずっているんだろう」くらいで十分です。
決めておくと、会話の中でその話題に自然と耳が向きます。 質問の言い方を考えるより、知りたい事を決めるほうが先です。
関心は、1回聞いて終わりにすると伝わりにくいです。 前に聞いた事を覚えていて、次に会った時にそこから話すと、相手は「ちゃんと聞いてくれていた」と感じます。
覚えるのが苦手なら、メモで構いません。 スマホのメモに、相手の役割名と、聞いた事を1行書いておくだけです。 「〇〇さん:庭の柿が今年は実が少ないと気にしていた」のような書き方で足ります。
誰でも、いちばん気にしているのは自分のことです。 自分の体調、自分の仕事、自分の家族の心配。 これは自分勝手という意味ではなく、人として自然なことです。
だからこそ、自分のことに目を向けてくれる人に出会うと、気持ちがほどけます。 「この人は自分を一人の人として見てくれている」と感じるからです。 そう感じた相手には、こちらの話も聞いてみようという気持ちが生まれます。
関心があるふりは、意外なほど早く相手に伝わります。 質問が1つで止まって、次の話につながらない。 前に話した事を、まったく覚えていない。 答えている途中で、相手の目がスマホや時計に行く。
こうした小さな事から、相手は「本当は興味がないんだな」と受け取ります。 しかも、ふりだと気づいた相手は、何も言わない時より冷めます。 関心は、話し方の工夫ではごまかせない所なんです。
関心を持って相手を知ると、こちらの話し方も自然に変わります。 相手が何を大事にしているかが分かれば、頼み方や伝え方を相手に合わせられるからです。
区分1で、相手の欲しいものから話す、という原則がありました(No.03)。 相手の欲しいものは、相手に関心を持たないと見えてきません。 この回の関心は、あの原則を使うための下ごしらえでもあります。
訪問介護で、新しいご利用者さんのお宅に初めて伺う場面です。 初回は伝える事が多いので、つい説明だけで時間が終わります。
ダメな入り方: 「本日からお世話になります。サービスの内容と、お願いしたい事をご説明しますね」と、書類を広げてすぐ本題に入る。
言い換え: 部屋に飾ってある写真や鉢植えに目を留めて、「きれいに咲いていますね。ずっと育てていらっしゃるんですか」と聞く。 話を少し聞いてから、「では、これからのことを一緒に確認させてください」と本題に入る。
説明の中身は同じです。 でも、ご利用者さんにとっては「サービスを受ける人」として扱われるか、「この家で暮らしてきた一人の人」として扱われるかの違いになります。 話したくなさそうな様子なら、深追いせずに本題へ移ります。
家族スタッフのAさんとは、毎日話しています。 だから、Aさんのことはよく知っているつもりになりがちです。
ダメな関わり方: 話すのは、シフトと記録と連絡事項だけ。 Aさんが最近どんな仕事にやりがいを感じているか、何に疲れているかは、聞いたことがない。
言い換え: 申し送りが終わった後に、「最近、訪問していていちばん手応えがあったのはどのお宅?」と1つだけ聞く。 答えを最後まで聞いて、「そうなんだ、どんな所が良かったの」と続ける。
身内は、知っているつもりで関心が止まりやすい相手です。 毎日会う人ほど、知らない事が増えていきます。
AIコンテンツの表紙を、外注のデザイナーさんに頼んでいる場面です。 やり取りは、納期と修正の連絡だけになりがちです。
ダメな連絡: 「受け取りました。2点修正お願いします。①色を明るく ②文字を大きく」
言い換え: 「受け取りました、ありがとうございます。今回いちばんこだわった所はどこですか。そこは残したいので教えてください」と聞いてから、修正をお願いする。
相手がどこに力を入れたかを知ると、修正の頼み方も変わります。 相手にとっては、作品を見てもらえたという手応えになります。
家庭でも同じことが起きます。 子どもに毎日かける言葉が、「宿題やった?」「早く寝なさい」だけになっていないでしょうか。
言い換えは、確認ではなく関心から入ることです。 「今日、いちばん面白かったことは何?」と聞いて、答えにちゃんと反応します。 返事が短い日があっても、聞き続けることで「話していいんだ」と伝わります。
○ よくある勘違い:関心を持つ=質問をたくさんすること、ではありません。質問を並べるより、1つの答えを深く聞くほうが関心は伝わります。質問攻めは、相手には取り調べのように感じられます
○ 関係する単元:No.07 聞き手にまわる(後で出ます。相手に話してもらう側に立つ原則です)
今日会う人の中から、1人を選びます。 会う前に、その人について知りたい事を1つ決めます。
会ったら、その事を1回だけ聞きます。 例:「〇〇さん、最近いちばん楽しみにしていることって何ですか」 答えを聞いたら、スマホのメモに1行だけ書いておきます。
1日の終わりに、振り返りシートの「使った原則」の欄に「No.04」と、実際に聞いた一言を書きます。 「相手の反応」の欄には、答えた時の表情を書きます。 声が明るくなったか、話が長くなったか、を見てください。
自分を分かってもらうより先に、相手を知ろうとする。会う前に「今日1つ知りたい事」を決めて、1回だけ聞く。聞いた事は1行メモして、次に返す。
問1 新しいご利用者さんのお宅に初めて伺いました。伝える事が多い日です。この回の原則に沿った入り方はどれですか。
問2 家族スタッフのAさんとは毎日話しているので、Aさんのことはよく分かっているつもりです。この回の考え方に近いのはどれですか。
問3 相手の話にうなずいてはいるものの、次に自分が話す事を考えていました。この状態について正しい説明はどれですか。
問4 関心を持とうと決めても、その場では自分の用件で頭がいっぱいになってしまいます。この回で勧めている準備はどれですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「誠実な関心を寄せる」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。