人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分1 土台:人は理屈より気持ちで動く★★★

No.03 相手の欲しいものから話す(相手の立場に立つ)

自分の言いたい事からではなく、相手の得や望みから話を始めるための回です。お願い・提案・注意のたびに使う★3の原則で、区分1の仕上げになるので、しっかりやります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 相手の欲しいもの :相手が「こうなったら嬉しい」と思っている事

ここで言う「欲しいもの」は、お金や物だけではありません。 楽になりたい。安心したい。失敗したくない。認められたい。時間を取られたくない。 こうした気持ちも、すべて相手の欲しいものです。

人によって、同じ話でも欲しいものは違います。 スタジオの値上げの話でも、ある利用者さんは「予約の取りやすさ」が気になり、別の人は「設備がきれいなままか」が気になります。 相手が何を大事にしているかを考えるのが、この回の出発点です。

② 「相手の立場に立つ」と「言いなりになる」の違い

相手の立場に立つと聞くと、相手の言うとおりにする事だと思うかもしれません。 そうではありません。 こちらのお願いや方針は、そのまま持っていて構いません。

変えるのは、話の入り口です。 同じお願いを、相手から見て嬉しい所から話し始めます。 ゆずるのではなく、相手の目線で並べ直すイメージです。

第1章 要点

① 人が動くのは、自分の理由がある時 必ず覚える

人は、頼まれたから動くのではありません。 「それをすると自分にとって良い事がある」と思えた時に、自分から動きます。 ここで言う良い事には、「相手の役に立てて嬉しい」という気持ちも入ります。

ところが私たちは、お願いする時につい自分の理由を話します。 「人が足りないから」「売上を上げたいから」「こっちが困るから」。 どれだけ正しくても、自分の理由だけでは、相手が動く理由になりません。

② 話す前に「相手は何が欲しいか」を1つ考える 必ず覚える

お願いや提案の前に、数秒だけ考える時間を取ります。 考える事は、次の3つのうちどれか1つで十分です。

  1. 相手は今、何に困っているか
  2. これをすると、相手にどんな良い事があるか
  3. 相手が一番いやなのは何か

答えが1つ見つかったら、それを話の最初の一文にします。 「これをすると、あなたは〇〇が楽になる」という形です。 自分の事情は、そのあとに添えれば十分伝わります。

③ 分からない時は、聞いてみる さらっと

相手の欲しいものが、いくら考えても分からない時があります。 その時は、決めつけずに本人に聞いてみます。 「この件で、一番気になっている事は何ですか」と聞けば、多くの場合は教えてもらえます。

想像だけで「相手の得」を作ると、外れていた時にかえって押しつけに聞こえます。 まして、本当は無い得をでっち上げたり大げさに言ったりするのは、相手を操る事です。ばれた時に信頼を失うので、言うのは本当に相手にある得だけにします。 相手に本気で関心を持つ事は、詳しくはNo.04(後で出ます)で扱います。ここでは、分からなければ聞けばいい、と覚えておけば大丈夫です。

○ よくある勘違い:相手の得から話す=こちらの事情を隠す、ではありません。事情は話の後ろに回すだけで、聞かれたら正直に話します
○ 関係する単元:No.18(後で出ます。相手にとっての意味を添えて、喜んで引き受けてもらう頼み方の原則です)

第2章 なぜ効くのか

① 人の頭の中は、まず自分の毎日でいっぱい

これは、人が自分勝手だという話ではありません。 誰でも、自分の仕事や家族の予定、今日の疲れの事を一番に考えて暮らしています。 あなた自身も、きっとそうです。

そこに「こちらの都合」の話が来ても、相手の頭の中には入る場所がありません。 相手の毎日に関係する話から始めると、初めて「自分の事だ」と耳を傾けてもらえます。

② 自分の都合から始めると、押しつけに聞こえる

最初の一文で、相手は話全体の受け取り方を決めます。 「人が足りないので、土曜も入ってほしい」と始まると、相手は「こちらの穴埋めを頼まれた」と受け取ります。 そのあとでどんな良い条件を言っても、身構えたまま聞くことになります。

No.01で、責められると心が守りに入る話をしました。 自分の都合を押しつけられた時も、心は同じように守りに入ります。

③ 相手の得から始めると、自分で決めた気持ちになれる

相手の得から話を聞くと、相手は「やるかどうか」を自分の物差しで考えられます。 その上で「やる」と決めたら、それは命令ではなく、自分で選んだ事になります。

自分で選んだ事は、言われてやった事より長く続きます。 講座のゴールにある「相手が自分から動く」は、この形から生まれます。 責めない(No.01)、認める(No.02)で整えた土台の上に、この原則が乗っています。

第3章 日常・仕事の例

① 介護:ヘルパーのBさんに、新しい研修を受けてほしい

事業所として、認知症ケアの研修を受けてくれる人を増やしたい場面です。

前者は、事業所の都合だけが伝わります。 後者は、Bさんが実際に困っていた事から始めています。 事業所の事情は、話の後ろに回しただけです。

② スタジオ:利用者さんに、キャンセルの規定を変えるお知らせをしたい

前者は、読んだ人に「私が責められている」と感じさせることがあります。 後者は、利用者さん自身の「予約が取りにくい」という困り事から始めています。

③ コンテンツ事業:購入者さんに、感想を書いてほしい

購入者さんが欲しいのは、買った物で成果を出す事です。 感想を書く事が、その助けにもなる形にしています。 ここでも、販売ページに載せる場合はその事を正直に書き、許可を取ります。

④ 家庭:子どもに、部屋を片付けてほしい

子どもの「欲しいもの」は、明日の遊びです。 親の気持ちより、子どもの楽しみの方が、本人を動かします。

第4章 今日の小さな実践

今日、誰かにお願いや提案をする前に1回だけ、「相手は何が欲しいか」を1つ考えてください。 答えが出たら、それを最初の一文にして話し始めます。

形はこれだけです。 「〇〇が楽になる(〇〇できる)と思うんだけど、〜してもらえるかな」

思いつかなければ、「この件で一番気になるのは何?」と先に聞いて構いません。 夜の振り返りシートには、最初の一文と相手の反応を書いておきましょう。

自分の理由だけでは、相手は動かない。話す前に「相手は何が欲しいか」を1つ考え、それを最初の一文にする。分からなければ聞く。無い得は作らない。

確認問題

問1 ヘルパーのBさんに研修を受けてほしい場面です。この回の考え方に近い頼み方はどれですか。

問2 スタジオの利用者さんに「直前キャンセルが多く困っているため規定を変えます」と知らせる文が、押しつけに聞こえやすいのはなぜですか。

問3 ご家族に訪問時間の変更を相談したいのですが、ご家族が何を大事にしているのか、考えてもよく分かりません。この回で勧めている動きはどれですか。

問4 相手の得から話を始めると、相手が自分から動きやすくなるのはなぜですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「相手の欲しいものから話す」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。