人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分2 好かれる人になる★★「お客さん」「あなた」「おばあちゃん」「そちら」。 私たちは、相手を役割や立場で呼ぶことがよくあります。 名前で呼ぶとは、その代わりに「〇〇さん」と、その人だけの名前で呼びかけることです。
呼び方は、大きく3つに分けられます。
特に2つ目は注意が要ります。 大人を子どものように呼ぶと、言う側に悪気がなくても、相手は「下に見られた」と感じることがあります。
自分の名前は、生まれてからずっと自分と一緒にある言葉です。 人混みの中でも、自分の名前が聞こえると思わず振り向きます。 それくらい、名前は本人にとって特別な響きを持っています。
名前で呼ぶことは、「あなたを一人の人として見ています」と伝えることです。 同じ「ありがとう」でも、「〇〇さん、ありがとう」と言うと届き方が変わります。
名前を覚えるのが苦手な人は多いです。 でも、記憶力の問題というより、覚えようとする手順がないだけのことがほとんどです。
この3つで、名前は「聞いた」から「覚えた」に変わります。
覚えた名前は、使わないと伝わりません。 あいさつの時やお礼を言う時、何かを頼む時に名前を添えます。
ただし、1文ごとに名前を入れると、かえって不自然です。 あいさつ・お礼・お願いの3か所に、名前を添えるくらいがちょうどよいです。
名前で呼ばれると、人は自分が「大勢のうちの1人」ではなく、「この私」として扱われたと感じます。 誰にでも言えるあいさつが、自分に向けたあいさつに変わるからです。
自分を個人として見てくれる相手には、気持ちを開きやすくなります。 前の回の、相手に本気で関心を持つ原則(No.04)が、いちばん短い形で伝わるのが名前です。
反対に、何度も会っているのに名前を呼ばれない。 名前を間違えられる。 こうした事が続くと、相手は「自分には関心がないんだな」と受け取ります。
名前を間違えた時は、ごまかさずにすぐ謝って、正しい名前で呼び直します。 間違いそのものより、ごまかしたことのほうが相手の心に残るからです。
訪問介護の現場で、いちばん大事にしたい場面です。
ダメな呼び方: ヘルパーのBさんが、「おばあちゃん、お風呂入ろうね」と声をかける。
言い換え: 「〇〇さん、これからお風呂の準備をしてもいいですか」と、名前で呼んでていねいな言葉で聞く。
ご利用者さんは、長い人生を自分の名前で生きてきた一人の大人です。 体が思うように動かなくなっても、その人であることは変わりません。 名前で呼ぶことは、その人生ごと尊重しますという姿勢の表れです。
ご本人が、別の呼ばれ方を望んでいる場合もあります。 その時は、ご本人に「どうお呼びしたらいいですか」と聞いて、その呼び方にそろえます。 事業所の中でもスタッフ全員で呼び方をそろえると、どのヘルパーが行っても同じように大切にされていると感じてもらえます。
レンタルスペースを月に何度も使ってくれる常連さんがいます。 受付で、毎回「ご予約のお名前は」と聞いていないでしょうか。
言い換え: 「〇〇さん、こんにちは。今日は19時からですね」と、名前と予約を覚えている形で迎える。
常連さんにとっては、「覚えてもらえている場所」になります。 初めての人には、受付で名前を確かめます。 帰る時に「〇〇さん、またお待ちしています」と1回呼ぶと、覚えるきっかけにもなります。
AIコンテンツの購入者さんから、使い方の問い合わせが届いた場面です。
ダメな返信: 「お問い合わせありがとうございます。ご質問の件ですが」から始まる、誰にでも送れる文面。
言い換え: 「〇〇様、お問い合わせありがとうございます」と、名前から始める。 文中でもう1回、「〇〇様の使い方でしたら」と名前を添える。
文字の場合は、名前の漢字を間違えないことが大前提です。 送る前に、問い合わせの名前と1字ずつ見比べます。
家庭では、名前で呼ぶことがいちばん減りやすいかもしれません。 妻に「ねえ」「おい」、子どもに「ちょっと」と呼びかけて、用件だけ言っていないでしょうか。
言い換えは、頼みごとやお礼の前に名前を1回入れることです。 「〇〇、ごはん作ってくれてありがとう」と、名前から始めます。 毎日一緒にいる相手ほど、名前で呼ばれると「自分に向けて言ってくれた」と伝わります。
○ よくある勘違い:名前を呼べば、それだけで好かれる、わけではありません。名前は、相手への関心や敬意を運ぶ入れ物です。中身がないまま名前だけ連呼すると、営業トークのように聞こえます
○ 関係する単元:No.04 相手に本気で関心を持つ
今日会う人の中で、ふだん名前で呼んでいない人を1人選びます。 その人に、あいさつかお礼のどちらかで、名前を1回添えます。
例:「〇〇さん、昨日はありがとうございました」 新しく会った人がいたら、別れた後に名前と特徴を1行メモします。 振り返りシートには、呼んだ時の相手の表情を書いてください。
名前は、その人を一人の人として見ている合図。聞いたらすぐ1回呼び、別れた後にメモする。ご利用者さんは「〇〇さん」と名前で呼ぶ。
問1 ヘルパーのBさんが、ご利用者さんに「おばあちゃん、お風呂入ろうね」と声をかけていました。この回の考え方に近い対応はどれですか。
問2 名前を覚えるのが苦手です。この回で勧めている方法はどれですか。
問3 何度も来ている常連さんの名前を、うっかり間違えて呼んでしまいました。どうするのがよいですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「名前を覚える」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。