人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分2 好かれる人になる★★

No.06 名前を覚えて呼ぶ

相手の名前を覚えて、会話の中で呼ぶ回です。★2、今日からすぐ試せる原則なので、要点を絞って短めに扱います。介護の現場では、名前で呼ぶことがご利用者さんの尊厳を守ることにもつながります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 名前で呼ぶ :役割や呼び名ではなく、その人の名前で呼びかけること

「お客さん」「あなた」「おばあちゃん」「そちら」。 私たちは、相手を役割や立場で呼ぶことがよくあります。 名前で呼ぶとは、その代わりに「〇〇さん」と、その人だけの名前で呼びかけることです。

② 3つの呼び方の違い

呼び方は、大きく3つに分けられます。

特に2つ目は注意が要ります。 大人を子どものように呼ぶと、言う側に悪気がなくても、相手は「下に見られた」と感じることがあります。

第1章 要点

① 名前は、その人にとって特別な言葉 必ず覚える

自分の名前は、生まれてからずっと自分と一緒にある言葉です。 人混みの中でも、自分の名前が聞こえると思わず振り向きます。 それくらい、名前は本人にとって特別な響きを持っています。

名前で呼ぶことは、「あなたを一人の人として見ています」と伝えることです。 同じ「ありがとう」でも、「〇〇さん、ありがとう」と言うと届き方が変わります。

② 覚えるための3つの工夫 必ず覚える

名前を覚えるのが苦手な人は多いです。 でも、記憶力の問題というより、覚えようとする手順がないだけのことがほとんどです。

  1. 聞いたら、すぐ会話の中で1回呼ぶ(「〇〇さんですね。よろしくお願いします」)
  2. 字や読み方を確かめる(「どういう字を書かれるんですか」)
  3. 別れた後に、名前と特徴を1行メモする

この3つで、名前は「聞いた」から「覚えた」に変わります。

③ 会話の中で、自然に呼ぶ さらっと

覚えた名前は、使わないと伝わりません。 あいさつの時やお礼を言う時、何かを頼む時に名前を添えます。

ただし、1文ごとに名前を入れると、かえって不自然です。 あいさつ・お礼・お願いの3か所に、名前を添えるくらいがちょうどよいです。

第2章 なぜ効くのか

① 「その他大勢」ではなく「私」として扱われる

名前で呼ばれると、人は自分が「大勢のうちの1人」ではなく、「この私」として扱われたと感じます。 誰にでも言えるあいさつが、自分に向けたあいさつに変わるからです。

自分を個人として見てくれる相手には、気持ちを開きやすくなります。 前の回の、相手に本気で関心を持つ原則(No.04)が、いちばん短い形で伝わるのが名前です。

② 呼ばない・間違えるは「覚える気がない」と伝わる

反対に、何度も会っているのに名前を呼ばれない。 名前を間違えられる。 こうした事が続くと、相手は「自分には関心がないんだな」と受け取ります。

名前を間違えた時は、ごまかさずにすぐ謝って、正しい名前で呼び直します。 間違いそのものより、ごまかしたことのほうが相手の心に残るからです。

第3章 日常・仕事の例

① ご利用者さんを「〇〇さん」と呼ぶ

訪問介護の現場で、いちばん大事にしたい場面です。

ダメな呼び方: ヘルパーのBさんが、「おばあちゃん、お風呂入ろうね」と声をかける。

言い換え: 「〇〇さん、これからお風呂の準備をしてもいいですか」と、名前で呼んでていねいな言葉で聞く。

ご利用者さんは、長い人生を自分の名前で生きてきた一人の大人です。 体が思うように動かなくなっても、その人であることは変わりません。 名前で呼ぶことは、その人生ごと尊重しますという姿勢の表れです。

ご本人が、別の呼ばれ方を望んでいる場合もあります。 その時は、ご本人に「どうお呼びしたらいいですか」と聞いて、その呼び方にそろえます。 事業所の中でもスタッフ全員で呼び方をそろえると、どのヘルパーが行っても同じように大切にされていると感じてもらえます。

② スタジオの常連さん

レンタルスペースを月に何度も使ってくれる常連さんがいます。 受付で、毎回「ご予約のお名前は」と聞いていないでしょうか。

言い換え: 「〇〇さん、こんにちは。今日は19時からですね」と、名前と予約を覚えている形で迎える。

常連さんにとっては、「覚えてもらえている場所」になります。 初めての人には、受付で名前を確かめます。 帰る時に「〇〇さん、またお待ちしています」と1回呼ぶと、覚えるきっかけにもなります。

③ 購入者さんへの返信

AIコンテンツの購入者さんから、使い方の問い合わせが届いた場面です。

ダメな返信: 「お問い合わせありがとうございます。ご質問の件ですが」から始まる、誰にでも送れる文面。

言い換え: 「〇〇様、お問い合わせありがとうございます」と、名前から始める。 文中でもう1回、「〇〇様の使い方でしたら」と名前を添える。

文字の場合は、名前の漢字を間違えないことが大前提です。 送る前に、問い合わせの名前と1字ずつ見比べます。

④ 家族を名前で呼ぶ

家庭では、名前で呼ぶことがいちばん減りやすいかもしれません。 妻に「ねえ」「おい」、子どもに「ちょっと」と呼びかけて、用件だけ言っていないでしょうか。

言い換えは、頼みごとやお礼の前に名前を1回入れることです。 「〇〇、ごはん作ってくれてありがとう」と、名前から始めます。 毎日一緒にいる相手ほど、名前で呼ばれると「自分に向けて言ってくれた」と伝わります。

○ よくある勘違い:名前を呼べば、それだけで好かれる、わけではありません。名前は、相手への関心や敬意を運ぶ入れ物です。中身がないまま名前だけ連呼すると、営業トークのように聞こえます
○ 関係する単元:No.04 相手に本気で関心を持つ

第4章 今日の小さな実践

今日会う人の中で、ふだん名前で呼んでいない人を1人選びます。 その人に、あいさつかお礼のどちらかで、名前を1回添えます。

例:「〇〇さん、昨日はありがとうございました」 新しく会った人がいたら、別れた後に名前と特徴を1行メモします。 振り返りシートには、呼んだ時の相手の表情を書いてください。

名前は、その人を一人の人として見ている合図。聞いたらすぐ1回呼び、別れた後にメモする。ご利用者さんは「〇〇さん」と名前で呼ぶ。

確認問題

問1 ヘルパーのBさんが、ご利用者さんに「おばあちゃん、お風呂入ろうね」と声をかけていました。この回の考え方に近い対応はどれですか。

問2 名前を覚えるのが苦手です。この回で勧めている方法はどれですか。

問3 何度も来ている常連さんの名前を、うっかり間違えて呼んでしまいました。どうするのがよいですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「名前を覚える」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。