人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分3 相手に納得してもらう★★★この単元で避けたいのは、相手の間違いを正面から突きつける言い方です。 「それ、違いますよ」「間違ってます」のように、相手を主語にして誤りを言い渡す形です。
似た言葉に「確かめる」があります。 確かめるは、記録や画面などの事実を、相手と一緒に見直すことです。 誤りを放っておくのではなく、突きつけずに一緒に確かめる。 この単元は、ここが中心になります。
「認める」と「謝る」は、少し違います。 謝るは「すみません」と気持ちを伝えることで、認めるは「ここを間違えました」と中身を言うことです。
謝っても、何を間違えたかを言わなければ、相手はすっきりしません。 逆に、中身をはっきり認めれば、謝罪の言葉が短くても伝わります。
間違いの指摘は、この「顔をつぶす」と結びつきやすい行為です。 誤りそのものより、人前で誤りを言われたことの方が、相手の心に長く残ります。
相手が間違っていると思っても、「あなたが間違っている」とは言いません。 代わりに、自分の側に疑いを置いて切り出します。
「私の勘違いかもしれないので、一緒に確かめてもいいですか」
この一言で、話は「どちらが間違っているか」から「事実はどうか」に移ります。 もし本当にあなたの勘違いだったら、そのまま引けばいいだけです。 相手が間違っていた時も、相手は自分で気づく形になるので、顔をつぶさずに済みます。
ただし、ご利用者さんの安全や事故につながる誤りは、その場で止めます。 止めるのは迷わずに、理由の話は後で、人のいない所でします。 指摘しないとは、見過ごすことではありません。
自分が間違えた時は、相手に言われる前に、自分から認めます。 早ければ早いほど、話は小さく済みます。
認める時は、次の3つを、この順番で言います。
言い訳や事情の説明は、言うとしても最後に短くです。 最初に事情を話すと、相手には「認めていない」と聞こえてしまいます。
間違いを扱う時は、人と人が向かい合うのではなく、2人で同じ物を見ます。 記録や予約の画面、メールの文面や商品の説明ページなどです。
「ここを一緒に見てもらえますか」と言うと、相手の目は人から事実に移ります。 誤りがどちらにあっても、責める・責められるの関係にならずに済みます。
すぐ認めるのは、本当に自分が間違えた所だけです。 もめるのが嫌で、自分の責任でない所まで「こちらのミスです」と言うと、後で話がこじれます。
特にお金や契約に関わる話は、事実を確かめてから認めます。 「確認してすぐにご連絡します」と言って、時間をもらうのは逃げではありません。
人は、自分から間違いに気づいた時は、わりと素直に直せます。 ところが人から突きつけられると、認めることが「相手に負けること」に変わります。
そうなると、間違いを直すより、自分を守る方が大事になります。 明らかな誤りでも、言い訳を探したり、話をそらしたりし始めるんです。 正面からの指摘は、誤りを直す近道に見えて、実は遠回りになります。
相手があなたのミスで怒っている時、相手は「どう責めようか」と考えています。 そこへあなたが先に、中身をはっきり認めると、相手は言おうとしていたことを先に言われてしまいます。
責める理由がなくなった人は、攻撃の勢いを保てません。 むしろ「そこまで言わなくてもいいですよ」と、気持ちがやわらぐことが多いです。 言い訳をすると、相手は「まだ分かっていない」と感じて、さらに強く責めてきます。
経営者のあなたが自分の誤りをすぐ認めると、スタッフは「ここでは間違えても言っていい」と感じます。 すると、小さなミスの報告が早く上がるようになります。
反対に、上の人が誤りを認めない職場では、下の人もミスを隠します。 介護の現場では、小さなミスの報告が遅れることが、大きな事故につながりかねません。 あなたが認める速さは、職場の安全にもつながっているんです。
ケアマネさん(ケアマネジャー:介護サービスの計画を立てる担当者)から、訪問の曜日について連絡がありました。 あなたの記録では、その曜日は先月から変わっています。
ダメな言い方: 「それ、先月変わってますよ。お伝えしましたよね」
相手を主語にして誤りを言い渡しています。 ケアマネさんは、恥をかかされたと感じるかもしれません。
言い換え: 「こちらの記録だと、先月から火曜日に変わっていることになっているんです。私の記録違いかもしれないので、お手元の計画と一緒に照らし合わせてもいいですか」
事実は同じですが、疑いを自分の側に置き、2人で見る形にしています。 どちらの記録が正しくても、関係は傷つきません。
AIコンテンツの購入者さんから、「案内されたページが開けない」と問い合わせが来ました。 調べると、こちらが送ったメールのリンクが古いままでした。
ダメな返信: 「システムの都合で一部リンクが変更になっておりました。お手数ですが、こちらのURLからお試しください」
事情の説明から始まり、こちらの誤りがぼかされています。 購入者さんは、自分の手間に誰も責任を持っていない、と感じます。
言い換え: 「お送りしたメールのリンクが古いままになっていました。こちらの確認不足です。開けずにお手間をおかけして、申し訳ありません。正しいリンクはこちらです。同じ内容のほかの購入者さんにも、今日中に正しいリンクをお送りします」
何を間違えたか・どんな迷惑をかけたか・これからどうするか、の順番で書いています。 言い訳は入れていません。
子どもの宿題を見ていて、昨日あなたが教えた解き方が間違っていたことに気づきました。 子どもはもう、その解き方で何問か解いています。
ダメな対応: 黙って、こっそり正しい解き方に誘導する。
親の面子を守ったつもりでも、子どもは何が起きたか分からず、混乱します。
言い換え: 「ごめん、昨日教えた解き方、お父さんが間違えてた。こっちが正しいんだ。解き直すの手伝うね」
親が自分の誤りをすぐ認める姿は、子どもにとって「間違えたら言えばいい」という見本になります。 この姿勢は、家族スタッフに対しても同じです。
今日、自分の小さな誤りに1つ気づいたら、相手に言われる前に自分から言います。
「さっきの〇〇、私が間違えていました。△△に直します」
予定の伝え間違い、頼み忘れ、言い方がきつかったことでも構いません。 大きな失敗を待つ必要はありません。
1日の終わりに、振り返りシートの「使った原則」に「No.11」と書き、実際に言った一言を書き残します。 「相手の反応」の欄には、相手の表情や返事がどう変わったかを書いてください。
○ よくある勘違い:間違いを指摘しない=間違いを放っておく、ではありません。安全に関わる誤りはその場で止めます。変えるのは、突きつけるか一緒に確かめるかという言い方です
○ 関係する単元:No.01(人を責めない)と根は同じです。自分の失敗を先に話してから注意する方法は、No.15(後で出ます)で扱います
相手の誤りは「私の勘違いかもしれないので、一緒に確かめても?」で切り出す。自分の誤りは言われる前に、何を間違えたか・迷惑・これから、の順で認める。言い訳は後回し。
問1 ケアマネさんから届いた訪問の曜日の連絡が、こちらの記録と食い違っています。本文に近い切り出し方はどれですか。
問2 購入者さんに送ったリンクが古いままでした。返信の書き出しとして、本文に近いものはどれですか。
問3 自分のミスで相手が怒っている時に、先に中身をはっきり認めると、なぜ相手の気持ちがやわらぎやすいのですか。
問4 スタジオの利用者さんから、料金の請求が二重になっていると強い口調で言われました。まだ記録を確認していません。本文に近い対応はどれですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「誤りを指摘しない」「誤りを認める」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。