人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分4 人を育てる・注意する★★同じ仕事でも、「押しつけられた」と思ってやるのと「任された」と思ってやるのとでは、仕上がりが変わります。 この回は、相手が後者の気持ちで受け取れるように頼む方法を扱います。
命令は「やって」と結論だけを渡します。 お願いは「やってもらえる?」と丁寧ですが、相手にとっての意味までは伝わりません。
この回でいう頼み方は、お願いにもう一歩足したものです。 相手にとっての意味を添えて、相手が自分で引き受けると決められる形にします。
頼む時は、自分の都合だけで終わらせません。 その仕事が誰の役に立つのか、相手の何が活きるのかを一言添えます。
「明日の掃除やっておいて」だけでは、ただの作業です。 「明日は初めての利用者さんが来るから、第一印象を良くしたいんだ」と添えると、掃除に目的が生まれます。
意味を添えるのは、嫌な仕事を良さそうに見せるためではありません。 大変な仕事なら、大変だと正直に言ったうえで、その仕事の意味を伝えます。
頼む相手を選んだ本当の理由を、言葉にします。 「手が空いていそうだから」ではなく、「細かい所に気づく人だから」のように、相手の良さを理由にします。
理由は、本当に思っていることだけを言います。 持ち上げるための作り話は、すぐに見抜かれます。 見抜かれると、頼みごとそのものが「うまく使われた」と受け取られてしまいます。
「今週きつかったら、言ってね」と、断れる道を残しておきます。 断ってもいいと分かっていると、人はかえって気持ちよく引き受けられます。
終わった後は、何が助かったかを具体的に伝えます。 このお礼が、次に頼む時の土台になります。
○ よくある勘違い:丁寧に頼めば、必ず引き受けてもらえるわけではありません。断られた時は理由を聞き、頼む時期や頼む相手を見直します
○ 関係する単元:No.03(相手の欲しいものから話す)、No.17(小さな進歩をほめ、期待をかける)
命令されて動く時、人は言われた範囲だけをこなします。 任されたと感じると、言われていない所まで自分で気を配ります。 その差は、仕事の丁寧さにそのまま出ます。
何のための仕事か分からないと、どこまでやればいいかも分かりません。 目的が分かると、相手は自分で工夫できるようになります。 工夫できる仕事は、他人の仕事ではなく自分の仕事に変わります。
「あなただから頼みたい」と言われると、人はその期待に応えたくなります。 それが本当に自分の良さなら、頼まれたこと自体が認められた証になるからです。
反対に、「誰でもいいから」という頼み方は、相手に「自分でなくてもいい仕事だ」と伝えてしまいます。 そう感じた仕事に、人は力を込めにくいものです。
断れる余地を残すと引き受けてもらいやすいのにも、理由があります。 断る自由があるのに引き受けたなら、それは自分で選んだことになります。 自分で選んだ仕事は、最後まで責任を持ちたくなります。
ダメな言い方 「土曜の掃除と鍵の締め、やっておいて」
身内なので一言で済ませがちですが、相手には作業の押しつけに聞こえます。
言い換え 「土曜の夕方、初めての利用者さんが下見に来るんだ。床がきれいだと、長く借りてもらえるかもしれない。あなたはいつも隅まで丁寧に拭いてくれるから、お願いできると心強いんだけど、どうかな。都合が悪ければ遠慮なく言ってね」
意味(初めての利用者さんの印象)と、選んだ理由(隅まで丁寧)と、断れる余地を入れています。
ダメな言い方 「表紙、全体的に直してください。もう少しいい感じで」
何のために、どう直すのかが分かりません。 デザイナーさんは、言われた範囲を手探りで直すしかなくなります。
言い換え 「表紙の配色、とても気に入っています。今回は、スマホの小さな画面で一覧に並んだ時にタイトルが読めるようにしたいんです。文字の大きさと太さだけ、調整をお願いできますか。いつも文字組みが丁寧なので、お任せすればきっと読みやすくなると思っています」
直す目的と範囲がはっきりし、相手の得意な所を理由にしています。
ダメな言い方 「明日、子どもの迎え行っておいて」
言い換え 「明日の夕方、ご利用者さんのご家族と大事な話があって、どうしても抜けられないんだ。迎えをお願いできると本当に助かる。もし難しかったら、別の方法を一緒に考えさせて」
家族への頼みごとほど、事情と感謝を省きがちです。 理由を話し、断れる余地を残すだけで、受け取られ方が変わります。
来月、新しいヘルパーさんが入ります。 最初の数回の訪問に、Aさんに同行してほしいと考えています。
ダメな言い方 「来月から新人さんの同行、Aさんがやってね。決まったから」
身内なので、相談もなく決定だけを伝えています。 Aさんにとっては、自分の訪問に加えて仕事が増えただけに聞こえます。
言い換え 「来月入る新人さんの同行を、Aさんにお願いしたいと思ってるんだ。Aさんのご利用者さんへの声かけを、最初に見て覚えてほしくて。新人さんが早く慣れれば、Aさんの訪問の負担も少し軽くなると思う。今の訪問の数で無理がありそうなら、先に調整するから教えてね」
相手の良さ(声かけ)を選んだ理由にし、Aさん自身の得(負担が軽くなる)も添えています。 負担が増える仕事なので、調整の余地も先に出しています。
今日、誰かに何かを頼む時に、1回だけ「何のためか」と「なぜあなたに頼むのか」を一言ずつ足します。 終わったら、何が助かったかを具体的に伝えてください。
頼む時は「何のためか」と「なぜあなたか」を一言ずつ添える。理由は本当に思っていることだけ。断れる余地を残し、終わったら具体的にお礼を言う。
問1 レンタルスペースの掃除を家族に頼みたい時、この回の考え方にいちばん合う頼み方はどれですか。
問2 外注のデザイナーさんに表紙の修正を頼みます。どの頼み方がよいですか。
問3 大変な仕事を頼む時の考え方として、この回に合うのはどれですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「喜んで協力させる」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。