人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)
区分5 現場で回す★★この単元でいう場面は、「相手」と「目的」の組み合わせです。 同じ家族スタッフでも、朝の声かけと、ミスを伝える時では目的が違います。 相手と目的の2つがそろうと、最初に使う原則が決まります。
原則はNo.01〜18で18単元分あります。 現場で全部を思い出すのは無理なので、場面ごとに「まずこれ」を3つ決めておきます。 3つは上限ではなく、迷った時の入口です。
ここでは、家族スタッフと家庭の家族をまとめて「身内」と呼びます。 似た言葉に「気心が知れた相手」がありますが、意味が少し違います。 気心が知れているのは良いことです。 ただ、身内は「言わなくても分かる」「多少きつく言っても切れない」と思い込みやすい相手でもあります。 この単元では、その思い込みの方を問題にします。
話す前に、2つだけ自分に聞きます。 1つ目は、相手が誰かです。 お金をいただく相手(ご利用者さん・スタジオの利用者さん・購入者さん)、一緒に仕事をする相手(スタッフ・取引先)、生活を共にする相手(家族)に分けると考えやすくなります。
2つ目は、今日の目的です。 関係を温めたいなら区分2、意見が違うなら区分3、注意や頼みごとなら区分4が入口になります。 どの場面でも、根っこは区分1(責めない・認める・相手の欲しいものから話す)です。 迷ったら、区分1に戻ります。
講座全体で「どの相手に、どの原則から使うか」はこの表にまとめます。 番号の後ろは単元の短い名前です。
| 場面 | まず使う原則3つ | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 家族スタッフ | No.01 責めない/No.16 問いかけ/No.17 小さな進歩をほめる | 人前で注意する。「前にも言ったよね」と過去を持ち出す |
| ご利用者さんとご家族 | No.07 聞き手にまわる/No.09 大切にされていると感じてもらう/No.11 自分の間違いはすぐ認める | 正しさで説き伏せる。ご利用者さんを子ども扱いする |
| スタジオの利用者さん | No.06 名前を呼ぶ/No.08 関心ごとを話題にする/No.18 喜んで引き受けてもらう頼み方 | 禁止の張り紙だけでルールを伝える |
| コンテンツの購入者さん | No.03 相手の欲しいものから話す/No.10 議論で勝とうとしない/No.11 自分の間違いはすぐ認める | 返信で言い負かす。定型文だけで終える |
| 取引先 | No.03 相手の欲しいものから話す/No.12 「はい」と言える問いから/No.13 相手に話させる | こちらの都合だけで期日や金額を決める |
| 家庭 | No.02 心から認める/No.04 本気で関心を持つ/No.07 聞き手にまわる | 仕事の口調で指示を出す。話を聞きながらスマホを見る |
表の3つは、左から順に使うという意味ではありません。 その場面で特に効きやすいものを並べています。 「避けたいこと」は、その場面で起きやすい失敗です。 話す前に、ここだけ見るのでも十分に効きます。
表を見ると、お客さんや取引先の行には「聞く」「話させる」が並んでいます。 多くの人は、お金をいただく相手には自然に丁寧になれます。 一方で、家族スタッフや家族には、命令・ため息・「前にも言った」が出やすくなります。
これは性格の問題ではありません。 毎日顔を合わせるので、一言ずつの重みを軽く感じてしまうんです。 だからこそ、身内の行こそ、意識して原則を使う場面だと決めておきます。
○ よくある勘違い:「お客さんには丁寧に、身内には本音でいい」。本音を言うことと、雑に言うことは別です。本音は、責めない言い方でも伝えられます
○ 3つを一度に全部やろうとしなくて大丈夫です。1回の会話で1つ使えれば、その日は合格です
○ 関係する単元:No.01(人を責めない)、No.20(卒業課題。原則を3つ選ぶ時にこの表を使えます。後で出ます)
No.03で見たように、人は自分の欲しいものに関わる話には耳を傾けます。 その欲しいものが、相手の立場によって違います。
ご利用者さんやご家族が欲しいのは、安心と「ちゃんと見てもらえている」という感覚です。 だから、聞くことと大切にすることが先に来ます。 購入者さんや取引先は、自分の得や損に敏感です。 だから、相手の得から話し、勝ち負けにしないことが効きます。 家族スタッフは、上司としてのあなたに「認めてほしい」「任されたい」と思っています。 家族は、仕事の成果より「分かってもらえている」ことを求めます。 欲しいものが違えば、入口の原則も変わるわけです。
お客さんは、嫌な思いをすれば離れていきます。 離れていくので、こちらもすぐに気づけます。 身内は離れられないので、嫌な思いをしても黙ってその場にいます。
黙っているから、言った側は「伝わった」と思い込みます。 実際には、相手の中に小さな傷が少しずつたまっていきます。 家族スタッフの場合は「家族」と「部下」の2つの立場があるので、言われた時の痛みも二重になりがちです。 関係が切れない相手ほど、一言の積み重ねが関係を決めます。
人は腹が立った瞬間に、18個の原則を思い出せません。 思い出せるのは、せいぜい1つか2つです。 場面ごとに入口を3つ決めておくと、その場で選ぶ手間がなくなります。 選ぶ手間がないので、一呼吸おく余裕が生まれます。
どれも架空の場面です。 表の「まず使う原則」が、実際の一言でどう出るかを見てください。
家族スタッフのAさんが、また訪問記録を書き忘れていました。
過去を持ち出さず(No.01)、命令でなく問いかけています(No.16)。 翌日に記録が書けていたら、その日のうちに「今日は書けてたね、助かった」と伝えます(No.17)。 ほかのスタッフがいる場では言わず、2人の時に話すのも大事です。
ご家族から、ヘルパーの到着が遅いと電話がありました。 実際は、道路の工事で10分ほど遅れた日がありました。
先に遅れを認め(No.11)、ご家族の困りごとを聞いています(No.07)。 理由の説明は、相手が話し終えてからで間に合います。
レンタルの常連さんが、片付けに時間がかかり、次の利用者さんを待たせていました。
名前を呼び(No.06)、理由を添えて頼んでいます(No.18)。 〇〇には相手の名前が入ります。
購入者さんから、内容が期待と違ったというメッセージが届きました。
ページの記載が正しくても、それで言い負かしても相手は戻ってきません(No.10)。 相手が何を欲しかったかが分かれば、別の講座や補足の資料を案内できます(No.03)。
取引先の担当者さんに、納品を1週間早めてもらいたい場面です。
「はい」と答えられる所から入り(No.12)、大変な所を相手に話してもらっています(No.13)。 相手が自分で出した案なら、無理のない期日に落ち着きやすくなります。
仕事から帰って、子どもに「宿題は? 早くやって」と言いかけた場面です。
宿題の話は、聞き終えた後で十分です(No.07)。 妻に対しても同じで、家事を「やっておいて」と頼む前に、やってくれたことを1つ言葉にします(No.02)。 家庭は、仕事の指示の口調がいちばん持ち込まれやすい場所です。
今日会う身内を1人選びます。 家族スタッフでも、家族でも構いません。 比較表のその人の行を見て、「避けたいこと」を1つだけ、今日はやらないと決めます。
たとえば家族スタッフなら、「前にも言ったよね」を今日は一度も言わない、です。 言いそうになったら、代わりに「どうしたらやりやすくなる?」と聞きます。 夜に、言わずにいられたかどうかだけを振り返ってください。
場面は「相手」と「目的」で見分け、比較表の3つから入る。身内ほど原則を手抜きしやすいので、身内の行こそ意識して使う。迷ったら区分1に戻る。
問1 家族スタッフのAさんが、同じミスを繰り返しました。ほかのスタッフもいる朝の申し送りの場です。比較表に沿った対応はどれですか。
問2 お客さんには自然に丁寧に話せるのに、家族スタッフや家族には命令口調が出やすい理由として、本文の説明に合うものはどれですか。
問3 コンテンツの購入者さんから「思っていた内容と違う」と連絡がありました。販売ページの記載は正確です。最初の返信として合うものはどれですか。
問4 取引先の担当者さんに納品を早めてもらいたい時、どう切り出すのが本文の例に近いですか。
出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「人を責めない」「心から認める」「相手の立場に立つ」「聞き手にまわる」「命令ではなく問いかける」など)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。