人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分1 土台:人は理屈より気持ちで動く★★★

No.02 心から認めて言葉にする

相手の良い所に気づき、それを具体的な言葉にして伝える回です。毎日使う★3の原則で、お世辞との違いが分かれ目になるので、しっかりやります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 認める :相手の行動や工夫に気づき、それを言葉にして伝えること

認めるとは、「あなたのしてくれた事を、ちゃんと見ていたよ」と伝えることです。 大げさにほめちぎる必要はありません。 気づいた事を、そのまま言葉にするだけで十分です。

前の単元(No.01)では、責める言葉をやめる話をしました。 責めるのをやめただけでは、相手から見ると「何も言われない」状態です。 空いた所に、認める言葉を入れていくのがこの回です。

② お世辞との違い :本当にそう思っているか、具体的か

お世辞は、相手を喜ばせるために、思ってもいない事や大げさな事を言うことです。 認めるのは、本当に良いと思った事実を伝えることです。 見分ける基準は2つあります。

「さすがですね」「すごいですね」だけで終わる言葉は、お世辞にも聞こえます。 何がどう良かったのかが入っていないからです。

第1章 要点

① 人は「自分は役に立っている」と感じたい 必ず覚える

どんな人にも、「自分のしている事には意味がある」と感じたい気持ちがあります。 仕事を頑張る理由は、お金だけではありません。 誰かの役に立てた、ちゃんと見てもらえた、という手応えも大きな支えです。

この気持ちに、言葉で応えるのが「認める」ことです。 ところが、毎日いっしょにいる相手ほど、この言葉は省かれがちです。 やってもらって当たり前、と感じてしまうからです。

② 具体的な行動と、自分がどう助かったかを言う 必ず覚える

認める言葉は、2つの部品でできています。

  1. 相手がした具体的な行動(「申し送りに、食事の量まで書いてくれたね」)
  2. それで自分や周りがどう助かったか(「おかげで次の訪問の準備がすぐできたよ」)

形にすると、「〇〇してくれて、〇〇で助かった」です。 「えらいね」「よくできたね」は、言い方しだいで上からの評価に聞こえることがあります。 行動と助かった事を言えば、立場に関係なく素直に届きます。

③ 当たり前の事こそ、言葉にする さらっと

大きな成果が出た時だけ認めるのでは、機会がほとんどありません。 毎日の時間どおりの訪問や、きれいに片付いたスタジオも、誰かが続けてくれているから成り立っています。

当たり前を続けている人は、気づかれないまま疲れていきます。 「いつも時間どおりに来てくれて、本当に助かってる」の一言で、その積み重ねが報われます。

○ よくある勘違い:認める=おだてる、ではありません。思ってもいない事を言うと、ほかの言葉まで信じてもらえなくなります。良いと思える事が見つからない日は、無理に言わなくて構いません
○ 関係する単元:No.17(後で出ます。小さな進歩をほめて、自信を持ってもらう原則で、この回の使い方を人を育てる場面に広げます)

第2章 なぜ効くのか

① 見てもらえていると分かると、人は続けられる

人は、自分のしている事が誰にも気づかれていないと感じると、続ける力がしぼんでいきます。 誰も見ていないなら、手を抜いても同じだと思えてくるからです。

反対に、「ちゃんと見ている人がいる」と分かると、同じ仕事にも張り合いが出ます。 認める言葉は、相手の中に「続けよう」という気持ちを育てます。 注意や命令を一つも使わずに、相手が自分から動くきっかけになるんです。

② 具体的だと、本当に見ていたと伝わる

「いつもありがとう」は悪い言葉ではありません。 ただ、誰にでも言える言葉なので、聞いた側は「挨拶の一部かな」と受け取ることがあります。

「昨日、ご利用者さんの好きな番組の時間に合わせて訪問を組んでくれたよね」と言われると違います。 そこまで見ていないと言えない言葉だからです。 具体的であるほど、「この人は本当に分かってくれている」と伝わります。

③ お世辞は、いずれ見抜かれる

人は、言葉と本心のずれに敏感です。 口先だけのほめ言葉は、表情や声の調子で、案外すぐに伝わってしまいます。

一度「この人のほめ言葉は口先だ」と思われると、その後の本当の言葉まで割り引かれます。 認める言葉は、相手を思いどおりに動かすための道具ではありません。 本当に良いと思った時にだけ言うから、効くんです。

第3章 日常・仕事の例

① 介護:ヘルパーのBさんが、ご家族への連絡を丁寧にしてくれた

Bさんは訪問のたびに、ご家族へ短い連絡メモを残してくれています。

前者も悪くはありませんが、何に対してのお礼かが伝わりません。 後者は、行動(メモを続けている)と、それで誰がどう助かったか(ご家族が安心している)が入っています。 Bさんは、自分の工夫がちゃんと届いていたと知ることができます。

② 介護:ご利用者さんが、昔の仕事の話をしてくれた

訪問の合間に、ご利用者さんが若いころの大工仕事の話をしてくれました。

人生の先輩に「えらいですね」は、子ども扱いに聞こえることがあります。 話の中で本当に感心した中身を、具体的に返します。 相手の経験と知恵への敬意が、そのまま伝わります。

③ スタジオ:レンタルの常連さんが、いつもきれいに使ってくれる

問題を起こさない人には、つい何も言わなくなります。 けれど、きれいに使ってくれる人がいるから、スタジオの評判が保たれています。 当たり前を続けてくれる人こそ、言葉にする相手です。

④ 家庭:妻が、子どもの学校の書類をまとめてくれた

家族は、いちばん「やってもらって当たり前」になりやすい相手です。 何が助かったのかを一言足すだけで、同じ「ありがとう」の重さが変わります。

第4章 今日の小さな実践

今日、誰か1人の具体的な行動を1つ見つけて、言葉にしてください。 相手は家族スタッフでも、お客さんでも、家族でも構いません。

使う形はこれだけです。 「〇〇してくれて、〇〇で助かった」

見つからない時は、「当たり前に続けてくれている事」を探すと見つかります。 言えたら、夜の振り返りシートに、実際に言った一言と相手の表情を書いておきましょう。

お世辞ではなく、本当に良いと思った行動を具体的に言う。形は「〇〇してくれて、〇〇で助かった」。当たり前を続けてくれている人こそ言葉にする。

確認問題

問1 ヘルパーのBさんが、毎回ご家族への連絡メモを丁寧に残してくれています。この回の考え方に近い伝え方はどれですか。

問2 ご利用者さんが、若いころの大工仕事の話をしてくれました。この回の考え方に合う返し方はどれですか。

問3 「いつもありがとう」より「昨日、好きな番組の時間に合わせて訪問を組んでくれたよね」の方が届きやすいのはなぜですか。

問4 外注さんの仕事に正直あまり満足していませんが、関係を良くしたいので、良いと思っていない点を「素晴らしいです」とほめようと考えています。この回の考え方に近いのはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「心から認める」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。