人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分2 好かれる人になる★★

No.05 笑顔と第一印象

会って最初の数秒の表情と、最初のひと言で、話を聞いてもらえる空気をつくる回です。★2、毎日の入口で使いますが、中身はシンプルなのでさらっと進めます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 第一印象 :会って最初に相手が受け取る「この人はどんな人か」の見立て

第一印象は、話の中身より先に決まります。 表情と目線、声の調子、最初のひと言。 相手はこれを一瞬で受け取って、「この人の話を聞こうか」を決めています。

初対面だけの話ではありません。 毎朝の「おはよう」も、その日の第一印象です。

② この回の笑顔と「作り笑い」の違い

先に、はっきりさせておきます。 この回の笑顔は、口角を上げる練習をすることでも、笑顔を自分やスタッフに強いることでもありません。

この回の笑顔は、「あなたに会えてよかった」という気持ちが顔に出たものです。 気持ちがないまま顔だけ笑っても、相手には不自然さが伝わります。 だから、顔を作るより先に、相手に向ける気持ちを整えることを扱います。

第1章 要点

① 笑顔は「会えてうれしい」の合図 必ず覚える

相手の顔を見て表情がゆるむと、それだけで「あなたを歓迎しています」と伝わります。 言葉で「よろしくお願いします」と言うより、先に届く合図です。

逆に、無表情で目も合わせずにあいさつすると、言葉が丁寧でも冷たく受け取られます。 相手は、言葉より表情のほうを信じるからです。

② 最初のひと言を、相手に向けて言う 必ず覚える

笑顔と同じくらい大事なのが、最初のひと言です。 手を止めて、顔を上げて、相手を見てから言う。 これだけで、同じ「こんにちは」の伝わり方が変わります。

作業の手を止めて、顔を上げてから、最初のひと言。 この順番を覚えておいてください。 表情が自然にゆるむのは、たいてい相手をちゃんと見た後です。

③ 笑えない日は、無理に笑わない さらっと

疲れている日や、気持ちが沈んでいる日もあります。 そんな日に無理に笑うと、かえって顔がこわばります。

その日は、笑顔を目標にしなくて大丈夫です。 手を止めて相手を見る、声をいつもより少しやわらかくする、の2つだけで十分です。

第2章 なぜ効くのか

① 人は表情を見て、話を聞く構えを決める

人は会った瞬間に、相手が自分にとって安心な人かどうかを感じ取ろうとします。 その手がかりになるのが、表情です。

やわらかい表情を見ると、「この人は自分を受け入れてくれそうだ」と感じて、気持ちがゆるみます。 こわばった表情を見ると、身構えて、話の中身が入りにくくなります。 同じ内容を話しても、入口の空気で受け取り方が変わるんです。

② 緊張している相手ほど、こちらの顔を見ている

初めて来た人、助けを借りる立場の人は、緊張しています。 訪問介護のご利用者さん、初めてスタジオを借りに来た人、初めて問い合わせをした購入者さん。 こうした相手は、こちらの表情から「迷惑がられていないか」を読み取ろうとします。

だからこそ、最初の表情が相手にとっては大きな安心材料になります。

③ 入口の空気は、その後の話にも残る

最初に感じた空気は、その後の会話にも残ります。 入口で歓迎されたと感じた相手は、少し言いにくい話や頼みごとも、落ち着いて聞いてくれます。

反対に、入口で冷たく感じた相手は、その後の言葉を悪いほうに受け取りがちです。 同じ「ここは気をつけてくださいね」でも、注意ではなく文句に聞こえてしまいます。 笑顔と最初のひと言は、その後の全部の話の土台になるんです。

第3章 日常・仕事の例

① 訪問の玄関

訪問介護のヘルパーのBさんが、ご利用者さんのお宅に着いた場面です。 前の訪問が押していて、頭の中は次の段取りでいっぱいです。

ダメな入り方: 無表情のまま、靴を脱ぎながら「失礼しまーす」と言って、すぐ台所へ向かう。

言い換え: 玄関の前で一呼吸おく。 ご利用者さんの顔を見てから、「こんにちは。今日もよろしくお願いします」と言う。

かかる時間は数秒です。 それでも、ご利用者さんにとっては「来てくれた」と「作業に来た」の違いになります。

② スタジオの受付

ダンススタジオに、初めての利用者さんがレンタルの鍵を受け取りに来た場面です。

ダメな対応: スマホを見たまま「予約の方ですか。お名前は」と聞く。

言い換え: スマホを置いて顔を上げる。 「こんにちは、お待ちしていました」と言ってから名前を確かめる。

初めての人は、場所に慣れていない分だけ不安です。 最初の数秒で「ここは歓迎してくれる場所だ」と感じると、次も使おうと思いやすくなります。

③ 家に帰った時の顔

仕事の疲れを、そのまま玄関に持ち込んでいないでしょうか。 家族にとっては、あなたが帰ってきた時の顔が、その夜の第一印象です。

言い換えは、家のドアを開ける前に一呼吸おくことです。 妻や子どもの顔を見てから「ただいま」と言う。 疲れている日は、笑顔でなくても構いません。 相手を見て言うだけで、伝わり方は変わります。

④ スタッフの表情が気になった時

家族スタッフのAさんの表情が硬く、ご利用者さんへの印象が気になる場面です。

ダメな対応: 朝の申し送りで「もっと笑顔で接して」と言う。

言い換え: まず、あなたがAさんに向ける表情と、朝のひと言を変える。 手を止めてAさんを見てから「おはよう、昨日の訪問ありがとう」と言う。

笑顔は、命令で出てくるものではありません。 言われて作った笑顔は、それこそ作り笑いになります。 人に笑顔を求める前に、自分が相手に向ける顔から変えるのが順番です。

○ よくある勘違い:笑顔=いつも明るく、にこにこしていること、ではありません。相手が困り事や悲しい話をしている時は、笑顔より、落ち着いた表情で向き合うほうが「大事にされている」と伝わります
○ 関係する単元:No.04 相手に本気で関心を持つ(表情が自然にゆるむのは、相手への関心があるからです)

第4章 今日の小さな実践

今日、最初に会う人を1人決めます。 会ったら作業の手を止めて顔を上げ、相手を見てから最初のひと言を言います。

例:「Aさん、おはよう」 笑顔が出なくても構いません。 振り返りシートには、言った一言と、相手の表情がどうだったかを書きます。

笑顔は顔を作ることではなく、「会えてよかった」が顔に出たもの。手を止めて、顔を上げて、相手を見てから最初のひと言を言う。

確認問題

問1 スタッフの表情が硬いのが気になっています。この回の原則に沿った対応はどれですか。

問2 前の訪問が押していて、頭の中は次の段取りでいっぱいです。ご利用者さんのお宅の玄関で、どうするのがよいですか。

問3 疲れていて、どうしても笑えない日があります。この回の考え方に近いのはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「笑顔を忘れない」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。