人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分3 相手に納得してもらう★★★

No.13 相手に話させ、相手の考えにする

こちらが説明しすぎずに相手に話してもらい、結論を相手自身の考えにするための回です。★3の、スタッフにも家族にも毎日使える原則なので、しっかりやります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 話させる :相手が自分の考えを口にする時間を、意識してつくること

ここでいう「話させる」は、無理にしゃべらせることではありません。 こちらが話す量を減らして、相手が考えを口にできる間(ま)をつくることです。

No.07(聞き手にまわる)は、相手に気持ちよく話してもらう原則でした。 この単元は、その先です。 相手に話してもらうことで、意見の違いを埋め、結論にたどり着きます。

② 相手の考えにする :結論を押しつけず、相手が自分で思いついた形にすること

同じ結論でも、人から言われたものと自分で考えたものとでは、守る気持ちが違います。 この単元では、相手が自分で結論にたどり着けるように、材料と問いを渡します。

③ 「誘導」と「丸投げ」との違い

この原則は、2つの物と混ざりやすいです。

この単元の形は、その間にあります。 目的と材料は渡し、答えは相手に考えてもらい、相手の案が良ければ本当に採ります。

第1章 要点

① 自分が話す量を減らす 必ず覚える

相手を説得したい時ほど、人はたくさん話してしまいます。 理由を並べ、例を出し、相手が口をはさむ前に結論まで言い切ります。

でも、こちらが話している間、相手は考えていません。 聞きながら、言い返す言葉か、終わるのを待つ気持ちでいっぱいです。

説得したい時ほど、自分が話す量を減らします。 目安は、こちらが一言話したら、相手に二言話してもらうくらいです。 相手が黙って考えている時も、すぐに言葉で埋めずに待ちます。

② 答えではなく、目的と問いを渡す 必ず覚える

相手に考えてもらうには、まず「何のために考えるか」を渡します。 そのうえで、答えではなく問いを渡します。

「どうしたらいいと思う?」の前に、目的を一言そえる。

目的のない問いは、相手を試しているように聞こえます。 「ご利用者さんが待たずに済むようにしたいんだけど、どうしたらいいと思う?」のように、目的と問いをセットにします。

問いの形は、次のようなものが使いやすいです。

③ 相手の案を、相手の名前で採用する さらっと

相手が出した案は、相手の案として採用します。 「Aさんの案でいこう」と、周りにも分かる形で言います。

自分も同じことを考えていたとしても、「実は私も」とは言わない方がいいです。 相手が自分で考えた、という気持ちを大事にします。 小さな修正が必要なら、「Aさんの案にここだけ足してもいいかな」と相手の案の上に重ねます。

④ 答えが決まっている事は、問いにしない 深追いしない

安全のきまりや法律で決まっている事は、相手に考えてもらう対象ではありません。 答えが決まっているのに「どう思う?」と聞くと、相手の案を採れずに、かえって信頼をなくします。

その時は「ここは決まっている事なんだ」と正直に伝えます。 そのうえで、「決まりを守るために、やり方はどうするといいと思う?」と、決められる部分だけを問いにします。

第2章 なぜ効くのか

① 人は、自分で決めたことを守ろうとする

人から言われた結論は「やらされること」です。 自分で口にした結論は「自分の約束」になります。

自分の言葉には、責任を感じます。 だから、相手が自分で決めたことは、言われたことよりも続きやすいんです。 うまくいかなかった時も、人のせいにせず、自分で直そうとします。

② 話しているうちに、相手が自分で気づく

人は、口に出して話すうちに、頭の中が整理されます。 こちらが指摘しなくても、話しながら「あ、そうか」と自分で気づくことがよくあります。

自分で気づいたことは、人から言われたことよりも深く残ります。 しかも、気づいたのは自分なので、顔をつぶされることもありません。

③ 現場のことは、相手の方が知っている

あなたは経営者として全体を見ていますが、現場の細かいことは、毎日そこにいる人の方がよく知っています。 相手に話してもらうと、あなたの知らなかった事情や、もっと良いやり方が出てくることがあります。

相手に話させるのは、相手を動かすためだけではありません。 あなた自身が、より良い結論にたどり着くためでもあるんです。

第3章 日常・仕事の例

① シフトの組み方を、家族スタッフのAさんに考えてもらう

訪問の予定が詰まり、移動の時間が足りない日が続いています。 あなたは、シフトの組み方を変えたいと思っています。

ダメな言い方: 「来月から、午前は東エリア、午後は西エリアにまとめるから。そうすれば移動が減るでしょ」

あなたの案は、正しいかもしれません。 でもAさんは「また上から決められた」と感じ、うまくいかない所が出た時に「社長が決めたことだから」と動かなくなります。

言い換え: 「最近、移動の時間が足りなくて、みんな焦ってるよね。ご利用者さんを待たせないようにしたいんだけど、シフトをどう組み直したらいいと思う?」 (Aさん:午前と午後でエリアを分けたら、移動が減ると思います。ただ、ご利用者のCさんのお宅は午後しか伺えないので、そこだけ例外にしたいです) 「なるほど、例外の所はAさんがいちばん分かってるね。Aさんの案で、来月から試してみよう」

結論はあなたの案に近いですが、Aさんの言葉で出てきました。 しかも、あなたの知らなかった例外の事情も出てきています。

② 返金を求める購入者さんに、まず話してもらう

AIコンテンツの購入者さんから、「思っていた内容と違う。返金してほしい」と連絡がありました。

ダメな対応: 「商品ページに内容は明記しております。返金の条件はこちらです」

すぐに説明を返すと、購入者さんは「話を聞いてもらえない」と感じ、言葉が強くなります。

言い換え: 「ご連絡ありがとうございます。どのあたりが、思っていた内容と違ったか教えていただけますか。今後の改善にも生かしたいので、率直に聞かせてください」

購入者さんに話してもらうと、「使い方が分からなかった」「ある章だけが期待と違った」など、本当の不満が見えてきます。 返金が必要なのか、使い方の案内で解決するのかは、話を聞いた後でなければ分かりません。 返金のきまり自体は、話を聞いた後で正直に伝えます。

③ ゲームの時間を、子どもに決めてもらう

子どものゲームの時間が長くなり、宿題が後回しになっています。

ダメな言い方: 「今日から、ゲームは1日30分まで。守れなかったら取り上げるからね」

子どもは決まりに従うかもしれませんが、親が見ていない所では守らなくなりがちです。

言い換え: 「宿題もゲームも、どっちもちゃんとやりたいよね。そのためには、1日の中でどう分けたらいいと思う?」 (子ども:宿題を先にやって、終わったら1時間がいい) 「宿題を先にやるのはいいね。1時間だと寝る時間が遅くなりそうだけど、どうする?」 (子ども:じゃあ、45分にする)

時間の長さは、話し合いで少し調整しています。 でも、「宿題を先に」は子ども自身の案なので、守る気持ちが違います。

第4章 今日の小さな実践

今日、誰かに何かをしてほしい場面が1回あったら、自分の答えを言う前に目的をそえて聞いてください。

「〇〇のためにしたいんだけど、どうしたらいいと思う?」

相手が考えている間は、黙って待ちます。 相手の案が出たら、その案でいけるかを先に考えます。

1日の終わりに、振り返りシートに「No.13」と書きます。 「相手の反応」の欄には、相手が出した案をそのまま書き残しておくと、次の1手を考える材料になります。

○ よくある勘違い:答えを決めておいて、相手に言わせるのは、この原則ではありません。相手は「言わされた」と気づきます。問いにするのは、相手の案を本当に採る気がある所だけです
○ 関係する単元:命令の代わりに問いかけて注意する方法は、No.16(後で出ます)で扱います。この単元は、注意ではなく「一緒に決める」場面が中心です

説得したい時ほど、自分は話す量を減らす。目的をそえて「どうしたらいいと思う?」と聞き、黙って待つ。出た案は、相手の名前で採用する。

確認問題

問1 訪問のシフトを組み直したい場面です。家族スタッフのAさんへの切り出し方として、本文に近いものはどれですか。

問2 Aさんが出した案が、あなたが前から考えていた案とほとんど同じでした。本文に近い対応はどれですか。

問3 返金を求めてきた購入者さんへの最初の返信として、本文に近いものはどれですか。

問4 介助のやり方で、安全のきまりとして決まっている手順があります。家族スタッフへの伝え方として、本文に近いものはどれですか。

問5 相手に話してもらうことが効く理由として、本文にあるものはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「しゃべらせる」「思いつかせる」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。