人を動かす講座(カーネギーの原則を、小さな会社の現場で使う)

区分4 人を育てる・注意する★★★

No.17 小さな進歩をほめ、期待をかけて自信を持たせる

注意した後に、相手が伸びていくかどうかを分ける回です。★3で、スタッフを育てる場面で毎日使うので、しっかりやります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 要点
  3. 第2章 なぜ効くのか
  4. 第3章 日常・仕事の例
  5. 第4章 今日の小さな実践
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 小さな進歩 :昨日より少しだけ良くなった所

進歩というと、目に見える大きな成果を思い浮かべがちです。 この回でいう進歩は、もっと小さなものです。 「書き漏れが前より減った」「言われる前に一度確認した」くらいの変化を指します。

完成までの道を階段にたとえると、ゴールに着いた時だけでなく一段上がった時にも声をかける、ということです。

② 期待をかける :「あなたならできる」と本気で思っていることを、相手に伝えること

期待とノルマ(必ず達成しなければならない数字や結果)は違います。 ノルマは「できなければ困る」という圧力です。 期待は「あなたにはその力がある」という信頼です。

同じ「次も頼むね」でも、ノルマとして言えば重荷になります。 信頼として言えば、背中を押す言葉になります。

③ おだてることとの違い

おだてるとは、相手を気持ちよくさせて、こちらの都合よく動かそうとすることです。 口先だけのほめ言葉は、すぐに見抜かれます。 見抜かれた後は、本気のほめ言葉まで信じてもらえなくなります。

この回のほめ方は、本当に見た変化を、そのまま言葉にすることです。

第1章 要点

① 小さな進歩を、その日のうちに具体的に 必ず覚える

人を育てようとすると、つい「まだできていない所」に目が行きます。 そこを意識して、昨日より良くなった所を探します。

見つけたら、なるべくその日のうちに言葉にします。 時間が空くと、相手は自分が何をほめられたのか思い出せません。

言い方は、行動を具体的に言うのが基本です。 「よく頑張ってるね」より、「今週は記録の書き漏れが1件だけだったね」のほうが伝わります。 具体的に言われると、相手は「ちゃんと見てくれている」と感じます。

「ほめると調子に乗るのでは」と心配する人もいます。 具体的な行動をほめる限り、相手は「その行動を続ければいい」と受け取ります。 調子に乗るのは、中身のない大げさなほめ方をした時です。

② 期待は、その人の良さに結びつけて伝える 必ず覚える

期待を伝える時は、相手がすでに持っている良さと結びつけます。 「Aさんは、ご利用者さんの小さな変化によく気づく人だから」のように言います。

人は、自分に向けられた良い評判に沿って動きたくなります。 先に「あなたはこういう人だ」と良い姿を渡すと、相手はその姿に近づこうとします。

ただし、ありもしない評判は渡しません。 本当に見たことのある良さだけを使います。 作った評判は、相手にとって居心地の悪い重荷になるだけです。

③ 「これならできそう」と思える大きさにする さらっと

自信のない人に、大きな課題をそのまま渡しても動けません。 最初の一段を小さく切り出して、「ここからなら、できそうだね」と伝えます。

うまくいかなかった時に、期待を引っ込めないことも大切です。 「次はできるよ」と言い続けてもらえると、人はもう一度やってみようと思えます。

○ よくある勘違い:進歩は結果だけではありません。結果がまだ出ていなくても、見直しの回数を増やしたといった行動の変化も進歩です
○ 関係する単元:No.02(心から認めて言葉にする)、No.15(ほめてから、遠回しに気づかせる)

第2章 なぜ効くのか

① 見てもらえていると、続けたくなる

新しいやり方を身につけている途中は、手応えが少ない時期です。 自分では変わったつもりでも、それが良い方向なのか分かりません。

そこで「良くなってるね」と言ってもらえると、進んでいる方向が合っていると分かります。 誰かが見てくれていると分かるだけで、もう少し続けようという気持ちが湧いてきます。

② 減点ばかりだと、伸びた所が見えなくなる

注意だけを受け続けると、相手は「自分はできていない人間だ」と思い始めます。 実際には伸びている所があっても、本人の目にも入らなくなります。

小さな進歩をほめると、相手は自分の伸びた所に気づきます。 「できている所もある」と分かると、残りの課題にも向き合いやすくなります。

③ 自信がない人は、そもそも動き出せない

人は「どうせ自分には無理だ」と思っていることには、手を出しません。 手を出さないので経験が積めず、ますます自信がなくなります。

期待を伝えて「できそうだ」と思ってもらうと、まず一歩目が出ます。 一歩目が出れば、その一歩をまたほめることができます。 ほめると自信がつき、自信がつくと次に進む、という回り方が始まります。

第3章 日常・仕事の例

① 介護:家族スタッフのAさんの記録

前に注意した記録の書き漏れが、少しずつ減ってきました。 先週は3件あったのが、今週は1件です。

ダメな言い方 「まだ1件漏れてるよ。ゼロにしてね」

正しいことを言っていますが、Aさんの努力は見えていません。 Aさんは「頑張っても、まだ言われる」と感じます。

言い換え 「今週は書き漏れが1件だけだったね。先週から、帰る前に見直してくれてるでしょう。ちゃんと効いてるよ」

残りの1件は、この日は言わなくても構いません。 進歩をほめた言葉の後に「でも、あと1件」と足すと、ほめた意味が薄れてしまいます。

② 介護:新人ヘルパーのBさんに期待を伝える

Bさんは、まだ仕事に自信がありません。 ただ、ご利用者さんへの話し方が穏やかで、ご利用者さんが落ち着かれることにあなたは気づいています。

ダメな言い方 「早く一人前になってね。来月からは一人で回ってもらうから」

ノルマとして伝わり、Bさんは不安になります。

言い換え 「Bさんが話すと、ご利用者さんの表情が柔らかくなるよね。あれは教えてできることじゃないから、本当に強みだと思う。来月の一人での訪問も、まずは慣れたお宅から始めよう。Bさんなら大丈夫だよ」

本当に見た良さに結びつけて期待を伝え、最初の一段を小さくしています。

③ AIコンテンツ販売:外注のデザイナーさん

前回の納品で伝えた修正点を、デザイナーさんが今回は最初から反映してくれました。

ダメな言い方 何も言わずに、次の依頼だけを送ります。 直してくれたことは、相手にとって「当たり前」として流されます。

言い換え 「前回お伝えした文字の大きさ、今回は最初から整えていただいていて助かりました。読みやすさへの気づかいが細かいので、次の教材の表紙もお任せしたいと思っています」

進歩を具体的にほめ、相手の良さに結びつけて次の期待を伝えています。

④ 家庭:子どもが自分から宿題を始めた

いつもは声をかけるまで始めない宿題を、今日は自分から始めていました。

言い換え 「今日は言われる前に始めてたね。自分で決めて動けるんだね」

翌日できなかったとしても、「昨日はできてたから、またできるよ」と期待は引っ込めません。

第4章 今日の小さな実践

今日、誰か1人を決めて、その人の「昨日より良くなった所」を1つだけ探します。 見つけたら、その日のうちに、行動を具体的にして言葉にします。

例:「今日は訪問先に着く前に連絡をくれたね。おかげで準備ができたよ」

見つからなかった日は、無理にほめません。 明日もう一度、同じ人を見てみてください。

小さな進歩を見つけたら、その日のうちに具体的に言う。期待は、本当に見たその人の良さに結びつけて伝える。うまくいかない日も、期待は引っ込めない。

確認問題

問1 家族スタッフのAさんの記録の書き漏れが、先週の3件から今週は1件に減りました。どう声をかけるのがよいですか。

問2 自信のない新人ヘルパーのBさんに、期待を伝える言い方としていちばん合うのはどれですか。

問3 「ほめると調子に乗るから、ほめない方がいい」という考えについて、この回の説明に合うのはどれですか。

出典:D・カーネギー『人を動かす』の原則(「わずかなことでもほめる」「期待をかける」「激励して自信を持たせる」)をもとに、独自の言葉と例で再構成。例はすべて架空です。